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Posted by チェスト at

2013年09月12日

お子様に観せるな 「風立ちぬ」

ようやく9月になって、しかも宮崎駿監督の引退宣言の後になってから観てきました、「風立ちぬ」。

実在の航空設計技師・堀越二郎氏という実在の人物の半生に、堀辰雄氏の小説「風立ちぬ」というフィクションを重ね合わせてつくられた映画。

感想は、まず、「素晴らしい映画だった」。

これまでの宮崎アニメとは一線を画す、大人のラブロマンス。

それも、切なく哀しい物語。

そうそう、かつて「紅の豚」が公開されたとき、当時二十歳を少し過ぎたばかりのワタクシは、その世界のテンポというか流れについていけなかった。

でも、四十を越えた今では、あの世界のダンディズムがすんなりと胸に入ってくる。

「風立ちぬ」も、それなりに年齢と人生経験を重ねたうえでなければ、その本当の感動は得られないのではないか。

上映が終わった後、明るくなった周りを見回してみると、年配の人ほど涙していたり、ハンカチを顔に押し当てていたりしたのがその証左だろう。

その意味では、まだ四十そこそこのワタクシも、まだこの映画の本当の感動を得ていないのではないか?

なにしろ宮崎監督は72歳。
これを最後に引退すると覚悟してつくった映画だ。
これまでの「宮崎アニメ」の作法をことごとく封印し、ひょっとしたら監督自身の気持ちの赴くままつくった映画かもしれないのだ。
この映画を観ると、宮崎監督の引退宣言の本気度も伝わってきた。

お子様に観せるな、というより、コドモにこの映画がわかってたまるか! という思いだ。


映画の中では、主人公の二郎は、ただただ美しい飛行機をつくる夢を追い続ける。

時代は大正から昭和初期。
日本は貧しい。
職を求め長距離を線路伝いに歩いて移動する人々。
銀行の取り付け騒ぎ。
土ぼこりのする道路を行きかう車。
仕事で遅い親の帰りを、薄暗い街燈の下で待つ子どもたち。
二郎は腹をすかせているに違いない子どもたちにパンを差し出すが、子どもは自らのプライドを守るかのように二郎を拒絶する。

それほどまでに貧しい国なのに、国を挙げて軍艦をつくり、空母をつくり、戦闘機をつくる。
しかしその戦闘機すら、工場で組み立てて滑走路に運ぶまで、牛に牽かれて移動するのだ。
二郎が視察に行ったドイツの工場には牛などおらず、街路は石畳で舗装されていて、部屋の暖房機のラジエーターにすらジェラルミンが使われているというのに。

時代は戦争に向けてひた走り、つくる飛行機も戦闘機や爆撃機ばかり。
しかし二郎は、その中にあって・・・発注者である軍の過大な要求にもかかわらず、ただひたすら美しい飛行機をつくろうと、ひたすら製図台に向かう。

それと並行して、美しいけれども薄命の少女・菜穂子との出会いと、ふたりの生活が描かれる。

そして、美しくも哀しいラストへと物語は進む・・・

・・・本当に素晴らしい映画でした。




さて。

映画では多くを語られなかったが、実在の堀越二郎は零戦の主任設計技術者として後に知られるようになる。
そして戦後は、長いブランクを経て、戦後初めての国産旅客機・YS11の設計にも加わる。

YS11は1962年(昭和37年)に初飛行し、1964年(昭和39年)に量産開始。
高度経済成長期、日本の民間航空路線は飛躍的に伸びていったが、それにはYS11の貢献も大きかった。
鹿児島を例にすれば、離島航路の大型化と安定輸送はYS11が担ったと言っていい。

YS11は、堀越二郎を含む設計技術者の大半が戦闘機設計の出身だったから、民間機にしてはおそろしく無骨に、頑丈に、そして真面目につくられていた。
でもそれだからこそ、平成の世になっても日本のローカル航空路の主役であり続けた。
(日本国内の最後のフライトは2006年・平成18年9月30日の沖永良部発 鹿児島行き)

そして、蛇足ながら、もうひとつ。

映画の中の二郎と同じ時代を、同じ名古屋で戦闘機の設計技師として生きたひとがいた。

井上廣則氏。

堀越二郎氏は三菱の工場だったが、井上氏は愛知航空機(現在の愛知時計電機)の工場にいた。

戦後は故郷の鹿児島県開聞町に戻り、町役場に勤めていた。
その後、助役となり、堀越氏たちがYS11を初飛行させたのと同じ1962年、唐船峡に開聞町営のそうめん流しを開いた。

その町営そうめん流しで井上氏が発明した回転そうめん流し機は、高度経済成長に伴ったレジャーブームの中で、西日本を席巻した。
その発祥の地のそうめん流しは、平成の大合併で指宿市営となったが、今でも夏季を中心に年間30万人を集めている。

井上氏はその後、開聞町長となり、その胸像が市営唐船峡そうめん流しの入口にある。
その顔は、にこやかに観光客に微笑みかけているようにも見える。


堀越氏や井上氏のような、いい仕事をしたいものだと思う。


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Posted by 植野 丈 (吉松真幸) at 22:34Comments(0)観たり聴いたり読んだり

2012年10月18日

「モノづくり」好きにはたまらない? 「とろける鉄工所」

ワタクシは一時期、酒造会社の現場で働いていたことがあったのだ。

それもあって、麹と酵母とその他もろもろの菌と人間が右往左往する漫画「もやしもん」(石川 雅之 作)の大ファンなのだけど、これが掲載されている「イブニング」(講談社)に一緒に連載されている、ある短編連作漫画が気になっていた。

そしてある日、書店でふと目にして、当時4巻まで出ているうちの1、2巻だけを買って読んでみた。

それが、「とろける鉄工所」(野村 宗弘 作)

2012年10月現在、8巻まで出ています。

主人公は溶接工。

おそらくは元溶接工である作者の実体験で描かれているのだろうけど、鉄を溶かしてくっつけて、切って曲げて塗装して・・・

ケータイやスマホのチップを作るロボットの足場も、東京スカイツリーも、縁の下の力持ちよろしく溶接工の方々が汗みどろになり、「スパッタ」や「ヒューム」と戦いながら、時には目を焼きながらがんばって作ってくれてるんだなぁと改めて教えられます。

けれども現場の苦労やドタバタが、笑いをふんだんに織り交ぜながら語られていて、あまりの面白さに2冊とも一気に読みきってしまい、4冊全部買わなかったことが本当に悔やまれました。

鉄工所と酒造り、そして今のワタクシには水づくりにまちづくりと、作るものは違っても、やはりそこは「モノづくり」、思わずニヤリとしたり、身につまされたり、共感するエピソードも特盛り状態で出てきます。

いや~、実際にモノづくりをしている人、モノづくりが好きな人には、ぜひぜひオススメしたい漫画です。

もうすぐ(2012年11月22日) 9巻が発売されます→ こちら

読めば、「スパッタ」とは何か、「ヒューム」とは何か、なぜ溶接が済んだ後にハンマーで叩いたりしているのか、なぜ鉄工所には鉄板が敷き詰めてあるのか・・・などなど、いろんな事も勉強できます。

冒頭に挙げた「もやしもん」といい、この「とろける鉄工所」といい、往年の名作「あしたのジョー」「巨人の星」などなど、講談社は芯の硬い漫画が好きなんでしょうかねぇ。

ワタクシも好きですが。



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Posted by 植野 丈 (吉松真幸) at 19:02Comments(0)観たり聴いたり読んだり